2010年01月28日
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面白ショートショート『小さなハイキック ぶつけ』

Written By: 遠野秋彦連絡先

 ぶつけは小さい身体を不満に思っていました。何しろ誰に抗議して殴ろうとしても、身長が合いません。蹴ってもダメです。強引に上を狙って殴れば届くことは届きますが、それでは破壊力がありません。

 悶々としていたぶつけですが、ある日、素晴らしいことに気付きました。

 そういう場合はハイキックを使えば良いのです。蹴る場合は下を狙うという固定観念を抜け出し、キックで上を狙うのです。もちろん、ちいさなぶつけでは、それほど上は狙えませんが普通の攻撃程度の高さは稼げます。そして、破壊力も十分です。

 というわで、ぶつけはハイキックを練習しました。

 そしてハイキックを習得したぶつけは、自信を持って人と付き合うことが可能になりました。

 いつしか、自信たっぷりのぶつけの回りには人々が集まるようになりました。誰しも何かに自信を持てなかったので、自信たっぷりのぶつけは社交的でもあり、人々の求心力になったのです。

 そして、いつの間にか、敵対するグループと抗争するようになりました。ぶつけは好戦的で争い好きだったのです。しかも、リーダー格のぶつけ自身は戦う必要がありませんでした。兵隊はいくらでもいたのです。

 しかし、いつしか均衡は崩れ、ぶつけのグループが優勢になりました。

 そこで、敵対グループは刺客を雇いました。ノーマークだった刺客は、入門者を装ってまんまと組織に入り込み、いきなりぶつけの前に姿を現しました。

 しかし、ぶつけは喜びました。

 練習に練習を重ねたハイキックをついに披露するときが来たのです。

 ところが、意外なことに刺客はぶつけ並みに背が低い男でした。

 ぶつけは、これなら楽勝とすぐに自慢のハイキックを放ちました。

 しかし、それは空振りに終わりました。敵の頭上をすり抜けてしまったからです。

 「ちちち、なっちゃいないな。背が小さいならそれなりの戦法を考えなきゃ」

 そしてぶつけはローキックで足下を突かれ、転倒したところを馬乗りで押さえ込まれました。

 「ほら。ローキックで転ばしてしまえば、背の高さなんて関係ないぜ」

 ぶつけは降参して刺客の弟子になりました。何しろ、背格好の似たぶつけは、技を伝授する相手としてはうってつけだったのです。

(遠野秋彦・作 ©2010 TOHNO, Akihiko)

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